「アバンギャルド」「対極主義」「日本の伝統」など、岡本太郎のエスプリがほどよく凝縮されている。書名『岡本太郎新世紀』からも伺われるが、彼のアバンギャルド芸術に対する取り組みは、21世紀の芸術の方向性を示唆しているように思われる。
本書に掲載されている人類学者の中沢新一の『超核の神話』は、東日本大震災で崩れた「原子力発電の安全神話」を乗り越えるうえで、参考になるのではなかろうか。その中でも「私たちは、芸術によって、核というものを越えていくことができるのではないか。技術と芸術が大きく分かれていく分岐点に立ちもどって、科学技術がつくりだすものを包摂し乗り越えていくことが、芸術の力で可能なのではないか。これは賭けです。これからの芸術が勝利するかどうかは、わかりません。しかし、できるかもしれない。いや、勝利できると、岡本太郎はこの作品で言いたかったのだと思います。ですから、『明日の神話』は、「超核」の神話です。」というくだりは興味深い。人類はこれまでの価値観を転換させて、これまでとは違ったライフスタイルを見つけなければ「肉体は吹き飛んで、生命は消えてしまう」だろう。
ジョルジュ・バタイユの『エロスの涙』に書評を寄稿していることを本書で初めて知った。豊富な美しい図版だけでも楽しめる。この一冊で岡本太郎の魅力を堪能できる良書。
- 出版社
- 平凡社
- 参考サイト
- 中沢新一 – Wikipedia
- 発売日
- 2011年2月23日
生誕100年ということで購入した岡本太郎の特集誌。この雑誌の表紙には「岡本太郎を知るための100のQ&A」とある。100の問いに答えているのは岡本太郎の秘書で、後に養女となる平野敏子の甥にあたる平野暁臣、美術手帳で『後美術論』を書いていた椹木野衣、東京国立近代美術館主任研究員の大谷省吾、以上三氏である。
平野氏の言及は彼の伯母が岡本太郎の秘書であり養女であったこともあってか、プライベートなことも随所にみられて興味深い。「酒には義理がある」という太郎の言葉やお茶目な彼の性格など、岡本太郎の人柄を知ることができる。
三氏とも岡本太郎の作品にみられるジョルジュ・バタイユの影響を語っていて、そのどれもが的をえているように思える。椹木氏も述べているように《夜》や《電撃》はおそらくバタイユの思想を念頭に入れて描かれている。また、三氏とも触れていないが、太郎の「ノン」という言葉にはバタイユの「非-知(le non-savoir)」を連想させるものがある。
この特集に「影響を受けた画家はいますか?」という問いがあり、そこにはセザンヌ、ピカソ、ダリの名があがっている。そして、その影響が作品のスタイルではなく、創造の精神やメディアを通じて芸術家としてのイメージを露出していく手法であると述べられている。岡本太郎の作品を見ると、その作品の中のパーツ、特に揺らめく光みたいな呪術的な要素の色や形にはアンドレ・マッソンの影響が見られる。
アンドレ・マッソンはエロティックな作品を多く残しているし、岡本太郎が「乗り越える」と意識してたピカソにも多くのエロティックな作品がある。ピカソの一見何でもない闘牛の絵の牛には勃起した男根が描かれている。太郎が好きだった祭りはエロティックな本来イベントだし、バタイユに強い影響を受けているわりには、太郎には、エロティックな作品が少ないように思われる。もしかしたら、それらの絵は意図的に隠されていいるのかもしれない。その真相はわからないが、岡本太郎のエロティックな作品の少なさが、彼とバタイユとの繋がりを客観的に希薄にし、二人の関係があまりクローズアップされない要因の一つになっていると思う。もちろん、バタイユの秘密結社について具体的な資料が乏しいことが、このことに大きな影響を及ぼしているのだけど。
岡本太郎にエロティックな作品が少ないのは、少ないのではなく、今、目にしている彼の作品の多くが、見る人は意識していないが、または意識されることなく、エロティックな要素を含んでいるからなのだろうか。岡本太郎自身、そのことを意識し、計算して描いていたとも考えられる。そうなると、今度は、太郎の作品のほとんどがエロティックな作品ということになる。いずれにせよ、確証もなく創造の域を越えるものではない。この問いの答えは・・・。
- 出版社
- 新潮社
- 参考サイト
- 平野暁臣 – Wikipedia
- 参考サイト
- André Masson – Wikipedia
- 発売日
- 2011年2月25日
岡本太郎:生誕100年記念特集ということで購入してみた。表紙には「明日のTAROへ名乗りを上げろ!!太郎に出会うキーワード&ガイドマップ」とあり、早速「岡本太郎ガイド&マップ」のページをめくった。
身近なところに岡本太郎の作品があったり、日本各地に彼のオブジェや絵画があったりと、このマップを見ていると岡本太郎の作品めぐりをしに足を運びたくなる。また、グッズガイドで岡本太郎の家具があることを知り、欲しい椅子があったけど、値段をみて…
こうしてページをめくっていくと「LAIBACH」のアートワークに目がとまった。おそらく、ロックが好きな人でも知る人は少ないこのバンド。何故この紙面で取り上げられているのだろうか。そんな興味をもち椹木野衣さんの『後美術論』を読んでみた。視点を変えてみると、ライバッハの活動とU2の「ZOO TV」とがこんな形で見えることに関心し、昨年がライバッハの活動30周年だったことをあらためて知らされた。
久しぶりにライバッハとU2の音源をスピーカーから流した。そして、椹木さんの著述を思い起こしながら、インターネット社会の中での芸術のあり方や活動の仕方について考えさせられた。
- 出版社
- 美術出版社
- 参考サイト
- 椹木野衣 – Wikipedia
- 発売日
- 2011年2月17日
知人がラジオで紹介されていたから買ってみた、と言って貸してくれた。
自ら「いまでも説明するのは苦手だし下手だと実感している」という著者の語り続ける文章は、ラフな感じで親しみやすく、ノリに乗っている人の語りというものは気持ちがいい。
著者の”幸福なエラー”という言葉にも表れているとおり、この書物にはチャンスを上手く生かす例が多くみられる。この本はこれからデザイナーになろうとしている人向けの内容だけど、このことを参考にしながら、著者の背中を見ること無く、この本を糧にするといいとのではなかろうか。
『エスクワイヤー』や『スタジオ・ボイス』など良質な雑誌が消えていく中で、ボクの周りでは元気の無いデザイナーが少なくない。元気の無い印刷業界だけど、こんなデザイナーがもっと増えてくると、また活性化するのではと思った。
- 著者
- 尾原史和
- 出版社
- ミシマ社
- 参考サイト
- SOUP DESIGN
- 発売日
- 2011年1月
ライフスタイルの中に「美」をうまく取り入れると、人生が楽しくなる。そんなことを再認識させられました。
そして、あくまでも適度にバランス良く「美」を取り入れて、決してドリアン・グレイみたいにならないように気をつけないといけないことも。
各章に付けられたアフォリズムにも教訓を得るものがあったので、幾つかを抜粋。
- 詩人/ジョージ・メレディス「才気あふれる女性は宝である、才気あふれる美は力である」
- スーパーモデル/クリスティ・ターリントン「内面から輝くような、真に健康な肌を手に入れることが、常に私にとってのゴール。自分がいちばん美しいと感じられるのは、肌に自信があるときです」
- ヘイル・クリニック/テレサ・ヘイル「自分の体を愛しましょう。愛するということの中には、手入れをすることも含まれます」
「美」に興味のある人なら持っていたい良書。
著者
ジュリエット・コーエン
監修
山野愛子ジェーン
翻訳
井口智子
出版社
ガイアブックス
発売日
2008年8月5日
1930年に日本の総合デザイン事務所の草分け「オカ・デザインスタジオ」を設立した(設立年に関して、インターネットで調べると1935年と言われているけど、本書の著者プロフィールでは1930年となっている)岡秀行さんの著作。
CTPやインクジェットプリント、そしてデジタルカメラの普及や、広告宣伝におけるマーケティング手法の導入など、この著作が執筆された当時(1956年)と2010年の現在とでは時代背景は大きく変化しているけれど、宣伝デザインの基本的なことはこの著書が書かれた当時と変わっていないことが、この本を読むとよくわかる。
「印刷所は安くして注文をとりたいから、デザイン料はサービス位に考えて、印刷費のなかにデザイン料を含めてしまうことがあります。これではデザインの主体性も、アートディレクターの存在理由も無意味になります。出来上がった印刷物の効果などは問題のないやり方です。」
21世紀の現在になっても、「何人かのデザイナーにただ漠然とデザインさせ、そのうちの一つを」選んだり、「校正の回数をむやみと多くし、仕事のスピードを減殺してしまう」など、岡さんの危惧は解決されずに今でも平然となされている。
ブロードバンドによりインターネットがより身近なものになり、人々のライフスタイルが大きく変わろうとしている。そして、グラフィックデザイナーやアートディレクターのあり方も転換期にきているような気がする。注文主と作り手の関係もこれを機に変わってもいいのではなかろうか。
それほどページ数は多くないパッケージの章には、ル・コルビュジエの思想にインスパイアされた「容器(パッケージ)として機能を完全に消化しているものは、必ず美しい形を持っている筈です。」という言及に見られるように、のちに日本の伝統的な包装技術の収集・研究で国際的に注目された岡さんの思いが随所に込められていて勉強させられました。
2010年の今でも、アートディレクターの入門書として多くの教訓を与えてくれる良書。
著者
岡秀行
出版社
美術出版社
発売日
1956年7月
「茄子紺」「紅色」「たんぽぽいろ」「水色」「桃色」「黄土色」「牡丹色」「狐色」「鴇色」「菫色」「山吹色」「鼠色」「緋色」「浅葱色」「深緑」「藤色」「若草色」「朱色」「藍色」「鶯色」「橙色」「墨色」
この22色はどれも身近に馴染みのある色ばかりで、見ているだけで心安らぎます。
児童文学研究家のアン・へリングさんのあとがきにある「こどもの美術教育には、過去から伝えられてきた日本の色彩の基礎知識とその楽しさを、もう少し取り入れる工夫があっても良いのではないかと思われる。」に同感です。
『DICカラーガイド 日本の伝統色』は300色。四季折々の自然の中に見られる色の数々。季節感豊かな風土の日本だからこそ感じることのできる色彩感覚を大切にしたいですね。
- 著者
- とだ こうしろう
- 出版社
- 戸田デザイン研究室
- 発売日
- 1985年12月
出版されたときに話題になったWebの企画・制作からビジネスまでを網羅したノウハウ本。
Web制作はその技術や規模、そして利用環境も、この著作が出版されてから大きく変化し、制作現場も専門化・分担化をするようになり、Web制作関連の職種も乱立している。時代の流れにあわせて様々なWebのノウハウ本が世に出回っているが、残念ながら、その多くがとてもクオリティの高いものとは言えず、あまりにも未熟で不適切なものが多いような気がする。
この本が出版されてから10年後の現在、Web2.0にみられるように、Web業界が大きく変化しているにもかかわらず、この著作の内容は色あせない。それは、そこにWebプロデュースのエッセンスが込められているからだと思う。
Web業界にかかわる人にとって必読の一冊。
- 公式サイト
- 【SCC Books】プロフェッショナルWebプロデュース
- 著者
- Jules Yoshiyuki Tajima
- 出版社
- エスシーシー
- 発売日
- 2000年3月
交換レンズの基礎から使いこなし方や選び方、広角レンズや望遠・マクロレンズの上達方法までを網羅した入門書。写真や図版による解説も充実していて、とても解りやすく「良いレンズ」について書かれています。
「味やクセといったその交換レンズ特有のものがないと、せっかくの写真がつまらなくなってしまう気がするのです。性能的にいえば、劣る部分もあるかもしれません。それを決定的な欠点ととらえるのではなく、その交換レンズの『味』として、とらえていただきたいなと、思う次第です。」という言葉に納得されられました。
「良いレンズ」を知る手がかりに活用したい一冊。
- 公式サイト
- 『カラー版 基本がわかる!写真がうまくなる!「デジタル一眼」交換レンズ入門』
- 著者
- 田中 希美男
- 出版社
- アスキー・メディアワークス
- 発売日
- 2009年03月
時代の流れとともに変わっていくグラフィックデザインと国家と企業の関係が簡潔に綴られている。
亀倉雄策、横尾忠則、中村誠、前田ジョン、石岡瑛子、松永真、サイトウ・マコト、など日本の著名なデザイナーも紹介されていて、ワールドワイドで見ると日本のグラフィックデザインがどう見えているのか参考になる。
グラフィック制作ツールやインターネットの普及などコンピューターテクノロジーの進化は、グラフィックデザインの世界を大きく変えた。そして、その変化は今も止まることなく続いている。しかも、超高速で。本書に収められているスティーヴン・ヘラーの「デザインがすべての人に必要だということは、良くわかっている。しかしそれは『新しいもの』がピクセルを前に進めず、ポスターをつくらず、本を構想せず、インターネットのサイトさえつくらないことを意味している。」という言葉には考えさせられるものがある。
- 公式サイト
- 図書出版 創元社 | グラフィック・デザインの歴史
- 著者
- アラン・ヴェイユ
- 監修
- 柏木博
- 翻訳
- 遠藤ゆかり
- 出版社
- 創元社
- 発売日
- 2005年07月