ニューロマンティックの先駆的バンドであるヴィサージ(Visage)の二枚目のスタジオ・アルバム。今まで、かっこいい写真だな、と思いながらこのレコードを聴いていたが、裏面のクレジットを見ると、写真はヘルムート・ニュートン(Helmut Newton)が撮影していた。スティーヴ・ストレンジのインタヴューにもあるように、スティーヴ・ストレンジはヘルムート・ニュートンの写真が気にいっていたらしく、シングルカットされた『The Damned Don’t Cry』のジャケット写真も彼によるものである。
そして、ヘルムート・ニュートンの名前の下には、Presentationとしてピーター・サヴィル(Peter Saville)の名前がクレジットされており、続けて、彼の所属していたGrafica Industriaもクレジットされている。ピーター・サヴィルは彼特有のセンスでヘルムート・ニュートンの写真を最大限生かすレイアウトに心掛けているようで、このジャケットデザインには余分な要素が一切無い。しかし、精錬された空白の取り方、書体の選択やバランスはこのデザインの品格と調和を作っている。
ヘルムート・ニュートンとピーター・サヴィルという豪華な顔ぶれで作成されたこのジャケット・アート。あらためて、スティーヴ・ストレンジのこだわりと、センスの良さを実感させられた。
- Photography
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- Presentation
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- Photography (Inner sleeve)
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- Steves’ clothes
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- Hair
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- 参考サイト
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- 発表
- 1982年3月
トム・ウェイツの二番目のスタジオ・アルバムで代表作。プロデューサのBones Howeがジャズ畑の人だし、Tom Scott(Wikiには何故かPete Christliebの名前がクレジットされている)がサックスで参加していたりとジャズの趣が随所に聴かれる曲が多い。
フランク・シナトラのアルバム『In the Wee Small Hours』のジャケット・デザインをベースにしたアルバムジャケットは、土曜の夜に相応しい相手を探している(「(Looking For) The Heart Of Saturday Night」)様子が描かれており、紫色のドレスを着た人が今宵の相手なのだろうか。このアルバムのアートディレクションを担当しているCal Schenkelは、このドレスやトム・ウェイツと思われる男のジャケットのタッチが気に入っているらしくフランク・ザッパの『One Size Fits All』でも、イラストレータのLyn Lascaroをソファーの生地を描くのに起用している。
筆者の所有しているLPレコードの裏側は曲のタイトルやクレジットにタイプライターの文字が使われていて、タイプライター特有の文字のばらつきと、「PRODUCTION AND SOUND BY BONES HOWE」で使用されているモダンな書体との対比が、このアルバムのノスタルジックな雰囲気を作っている。さらに、トム・ウェイツの友人Scott Smithが撮影した二枚の白黒写真がミュージシャンの日常をみせてくれていて、このミュージシャンがアルバイトをしていたNapoleone’s Pizza Houseを歌った曲など、彼の身近な出来事を連想させてくれる。
夜の街で、明け方まで静かに過ごす時に相応しい一枚。
- Art Direction
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- Cover Illustration
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- Photography
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- 参考サイト
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- 発表
- 1974年 10月
ウルトラヴォックのサードアルバムで、エレクトリック・ロックの世界に絶大な影響を与えたアルバム。
ウルトラヴォックといえば、大英帝国勲章を叙勲されたミッジ・ユーロ時代の曲が大ヒットを連発したが、初期のジョン・フォックス時代の曲を聴くと、商業的には恵まれなかったが、国内外の多くのアーティストに影響を与えていることがわかる。特にこの『Systems of Romance』の完成度は高く、音だけでなく、ジャケット・アートも素晴らしい。
筆者が所有するLPレコードのインナースリーブにはスリーブ・コンセプトとしてジョン・フォックスの名前がクレジットされているが、レイアウト・バランスやファッショナブルで芸術的なイメージ写真の周囲に施されたカラーチャートなどは、彼のグラフィックデザイナーとしての素養が感じられる。
「Quiet Men」や「Just for a Moment」など、『Systems of Romance』はウルトラヴォックの音を確立したアルバムだと思う。そして、その後のテクノやアート・ロックに引き継がれていく名作として、今後も聴き続けていきたい。
音を聴いても、ジャケットを眺めても、芸術の秋に相応しい一枚。
- Sleeve Concept
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- Group Photography
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- Cover Design
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- 参考サイト
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- 発表
- 1978年9月8日
筆者のリビングルームは一種類、対応するLED電球がないものを除いて、全てLED電球に変えた。このクリア電球タイプのLDA6LCは、最後に変えた電球である。
このLDA6LCには、明るさが210lmの「LDA4LC」の姉妹品があるが、この明るさでは、60W電球の代役としては力不足だった。クリア電球以外のLED電球も検討したが、ルイスポールセンのパークフースに似合うのはクリア電球だけで、これ以外どの電球も雰囲気が合わない。そして、暫く待ったかいがあり、このクリア電球タイプのLDA6LCが発売された。
明るさは485 lmで40W形相当とあるが、体感での明るさは60Wに近く、40Wの電球よりも明るく感じる。また、光量だけでなく電球そのもののデザインも美しい。見た目は、従来のクリア電球と近似しているが、白と透明、黄色の発行部分のパーツの一つ一つに精錬されたクオリティを感じ、全体的な質感に品格を与えている。そして、長時間灯していても、熱くならず、部屋の室温に影響を与えない。
次は、現時点で製品化されていない調光機対応で全方向タイプのボール型LED電球の登場を待ちたい。
- 参考サイト
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ZOAのミニアルバム。音とカバーアートがこれほどマッチしてる作品もめずらしいと思う。プログレシッブで和洋折衷、そんな楽曲にふさわしく、秋田和徳さんがデザインした絵の中には、多種多様なモチーフが混在している。
ジャケットには炎の中に様々なモチーフが散りばめられている。水墨画のような鳥居、壁画に描かれたような観音様、琳派を思わせるユリの花、洋風の人面太陽、フラ・アンジェリコが描いたような大天使ガブリエル…。このカオス状態の表側とは裏腹に、見開いた内側は、表側で配置されていたユリの花が紙面の中心に置かれている。そこには柔らかな光がこの花を照らして、静寂さを際立たせている。表が地獄で、裏が天国を表しているのか…。
蛇腹折りのインナースリーブに目を向けると、そこにも和と洋が計画的に混在している。要所要所に用いられている篆書体。漢字と平仮名、ギャラモンと思われるアルファベットとの混在。古紙のようなマテリアル。表罫線と裏罫線とを組み合わせた囲み罫…。
ただ、音を聴いて、ジャケットを眺めるだけ…。言葉では表せない一枚。
- Cover Design
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- 参考サイト
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- 発表
- 2000年5月20日
ケイト・ブッシュの6枚目のスタジオ・アルバムで、作品のクオリティもセールス良好だった。参加したメンバーもブルガリアン・ヴォイスの三人やヴァイオリニストのナイジェル・ケネディ、そして今は亡き伝説のベーシストミック・カーンと異色のミュージシャンたちがクレジットされている。
モノクロの写真のポートレートが印象的なこの写真を撮影したのは、ケイト・ブッシュのお兄さんで作家であり写真家のJohn Carder Bush。写真家として彼の作品は多く見られないが、この『The Sensual World』のジャケット写真は素晴らしい。薔薇の花で隠されたケイト・ブッシュの口元が、彼女のセンシティブな部分を表現し、見開いた目はフランスの詩人アルチュール・ランボーのような見者の勇気を彷彿とさせる。この力強さと内に秘めた優しさは、薔薇のように美しく刺々しい。
John Carder Bushの写真に金色でアルバムタイトルとアーティスト名が上品なデザインフォントで配置されたデザインは、このとてもシンプルな構成により、このポートレートを引き立てている。これは、数多くのアルバムジャケットを手掛けているBill Smith Studioによるもので、その完成度の高さが頷ける。
- Photography
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- Design
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- 参考サイト
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- 発表
- 1989年10月16日
ヴォーカルであるシャーデー・アデュの甘美な写真を前面に押し出し、余分なものをそぎ落としたデザインが印象的なシャーデーの四枚目のアルバム。至高の愛に生身の体以外に何もいらないことを、このジャケットは僕たちに再認識させてくれる。
この写真を撮影したのは、スコットランド出身の写真家アルバート・ワトソン。GQ、ハーパースバザーやヴォーグなど数多くの著名な雑誌で活躍している彼のポートレート写真には、被写体の人格がおもむろに表れている。内面的に物静かな人、神秘的な人、心優しい人、快活な人、内に野心を秘めた人…。その人それぞれの内面が彼のポートレート写真を見ると伝わってくる。この『Love Deluxe』のジャケット写真も、そんな彼の写真の一枚である。
甘美的な姿に秘められた躍動感みなぎる静寂な情熱が、アルバート・ワトソンの写し撮ったシャーデー・アデュから感じられる。そして、この写真はこのアルバムに収められた曲そのものを、僕たちに目に見える形で伝えてくれている。
- Photography
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- Design
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- 参考サイト
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- 発表
- 1992年11月11日
このアルバムのジャケットのアートワークはカール・クレフィッシュであるが、アルバムのクレジットに明記されているようにエル・リシツキーのデザイン思想に強く影響にされている。
20世紀前半に活躍したロシアの構成主義デザイナーであるエル・リシツキーはタイポグラフィーやフォトボンタージュを巧みに用いたデザインで、現代のグラフィックデザインの基礎を築いたような人物である。彼の主な作品には『赤のくさびで白を打て』や『From Two Quadrants』など、白と黒と赤の三色を用いた作品や、ペリカン・インキ社のための一連のポスターに見られるような写真を加工して作られた作品などがある。
このクラフトワークの『人間解体』のアートワークには、そのようなリシツキーのデザイン的な特徴を周到して作られている。構成主義的な斜めのレイアウト。白黒赤の三色によるカラーリング、写真は部分的に背景色の赤色やタイポグラフィで用いられている黒色と同じ色で塗られ、厳格なトーンマナーを維持させている。また、この着色により、塗られずに残された元の写真が人工的に作られた部分との対比をなし、クラフトワークの電子音楽をオーバーラップさせるかのように無機質なものと有機的なものをバランスよく表現している。
このアルバムを聴きながらジャケットを眺めていると、クラフトワークの音にリシツキーの思想が隠されているような気がして面白い。
- Inspired By
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- Artwork
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- Photography
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- 参考サイト
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- 発表
- 1978年 5月
真っ黒なボックス型のカバーにはシルバーの箔押しで「RAIN TREE CROW」と印字されている。この中にはプラケースに収められたCDとブックレット、そしてこれとは別に対訳付きの歌詞と、デヴィッド・シルヴィアン、藤原新也、ブロードキャスターのピーター・バラカン、プロデューサーの立川直樹、四氏によるライナーノーツが掲載されているブックレットが収められている。
『RAIN TREE CROW』は、1982年に解散したイギリスのロックバンド「ジャパン」の再結成ユニットでそのアルバム。メンバーはジャパンの最後のオリジナルアルバム『錻力の太鼓』と同メンバーだけど、何故かジャパン名義でない。その理由はこのアルバムに収められている12曲の音を聴けば、よくわかると思う。これはジャパンの音ではない。
プラケースに入れられたブックレットの表紙はセピア色の沙漠の写真で、大きく「RAIN TREE CROW」とボックス型のカバーと同じ書体で印字されている。この殺風景な写真からはイメージが付きにくい「雨」と「木」、そしてこの写真の何処にも姿が見えない「烏」という単語。このアンバランスな組み合わせに多くの人が首をかしげるかもしれない。筆者もその一人だった。しかし、ジャパンでない「RAIN TREE CROW」の音を聞けばその答えが解かる。映画『バグダッド・カフェ』の舞台でもあるこのモハーヴェ砂漠を撮影した藤原新也さんが明確にそのことを語っている。
あの私の写真の中に「RAIN TREE」が見えたのである。不思議なことだ。私はある人間の目と、そして音の創造とによって、私自身の撮った写真に対する新たな見かたを教えられたのだ。それを言葉にするというのは野暮である。
- cover photography
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- design
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- art director
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- 参考サイト
- Rain Tree Crow – Wikipedia
- 発表
- 1991年4月20日
スマートフォン用のサイトを手掛けていて、Androidに組み込まれているシステムフォント『Droid』の拙さが気になっていた。Droidの日本語フォント『Droid Sans Japanese』には、まず太文字がない。よって、コーディングでボールドを指定しても、文字の太さが変わらない。また、全角の「+」や「-」「○」などの記号が、ひらがなやカタカナ、漢字に比べて、極端に小さくなる。その昔、モリサワ社のフォント「新ゴ」は全角で数字を打つと半角幅の数字が表示されていたが、それと同じくらいバランスが良くない。
そんなことを多くの人が思っていたのかは知らないが、Android 4.0から、システムフォントが『Roboto』に変わった。この移行に伴い、日本語のフォントは『Droid Sans Japanese』からモトヤ社の書体『モトヤLシーダ3等幅』と『モトヤLマルベリ3等幅』に変わった。モトヤ社は馴染みの会社で、『アポロ』や『ステンシルアポロ』など実用的でユニークな書体があるので、これらを好んで使用している。今回Android 4.0で採用されたゴシックと丸ゴシック二つの書体も実用的だし、どこか愛嬌のあるデザインの書体なので、Android OSには似合っているかもしれない。
完成度の高いフォントによって、上質なスマートフォンサイトを制作する意欲がわき、Androidで閲覧する楽しみが増えるかもしれない。
- デザイナー
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- 参考サイト
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