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色彩と文化 | 色彩

2001年にイギリスの黒人デザイナーオズワルド・ボーテング(OZWARD BOATENG)と仕事をしているときに、彼のポリシーを幾つか聞かされた。

まず一つ目は「財布を持たない」。オズワルドはトミー・ナッター(ローリングストーンズやビートルズ等のスーツを手がけた)のもとで修業をしたテーラードが得意なデザイナーで、彼の仕立てたスーツも多くのミュージシャンたちに愛用されている。確かに彼のスーツはシルエットが美しい。オズワルド自身、長身で均整のとれた体つきをしており、自分のスーツをかっこよく着こなす。そして、彼は自分のスーツを着る時にはポケットに何も入れてはいけないと言う。なぜなら、スーツのシルエットが変わるからだそうだ。なるほど、この美しいシルエットを保つためにはポケットに何も入れないほうがいいだろう。

彼自身もポケットに何も入れていない。さらに、彼の場合は鞄も持たない。荷物は荷物持ちが持つからだそうだ。彼の家はガーナー系の黒人一家だが、金持ちで、いわゆるブルジョワ階級だった。鞄は持たないけど、財布くらい持つだろう、と聞いたところ、オズワルドは財布持たないと言った。なぜなら、お金は他人に払ってもらうからだそうだ。

オズワルドのポリシー二つ目は、「白いスーツを着ない」ことだった。オズワルドのデザインしたスーツやシャツはビビッドな色が多い。それは、紫やオレンジなど発色のいい色は、彼の黒い肌によく合うからである。しかし、日本人にはこの派手な色のスーツは売れない。紺やグレー以外で遊びで着るスーツの色は生成りや白が売れる。そこで、彼に白いスーツを提案したところNGだった。なぜかと言えば、黒人が白いスーツを着ることは奴隷を意味するからだそうだ。なるほど、これまで意識したことはないが、確かにマネやピカソの絵画に出てくる奴隷は白い服を着ている。

海外でバイイングをしていると、彼らの文化や人種と日本のそれとのギャップを感じることがある。レディースのニットやカットソーをピックアップしていると、欧米人からベージュをよく勧められる。白人の女性は春夏に素肌にベージュをよく身に付けるが、彼らの出すベージュの色目は黄色人種の肌の色に近く、これを素肌に着ると一瞬、何も身に付けていないように見える。欧米でポピュラーな色が、日本では必ずしも一般的になるわけではない。計測された数値上では同じ色でも、人種や宗教、住む場所の気候などで色の見え方は大きく変わってくることもある。

文化によって色の意味合いが異なることもあるが、色の語源となると洋の東西で共通点もみられる。例えば、「赤」「red」の語源はどちらも人の血に関連している。「赤」は人身御供の儀式の様子が語源あり、「red」はサンスクリットで「血」に関連した語である「rudiras」をその語源としている。日本語の「アオ」は藍(アヰ)に由来し、英語の「blue」は古代ゲルマン語で藍色を表す「blao」を語源としている。「黒」と「black」の語源はともに燃えることに関連していて、「黒」は火を焚く場所の天井や煙突に、すすが点々とついている様子をあらわし、「black」はラテン語で火をあらわす「flamma」から派生したもので燃えかすの色を意味している。

このように色彩は人間の文化にも多種多様な影響を与え続けている。

参考文献:『色彩の世界地図』21世紀研究会編、文春新書

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