「TRICKY」の名前が四つに分断されたデザインが印象的なジャケットの『マクシンクェーイ』は、90年代のトリップ・ホップを代表するトリッキーのデビュー作。アルバムのタイトルは彼が4歳の時に自殺した母親の名である。
このアルバムのアートディレクションとデザインを手がけているCally(本名:Martin Callomon)は、Island Recordsのアートワーク部門Island Artに所属しているアートディレクタで、70年代にはThe bears、80年代にはThe tea setというパンクバンドのメンバーでもあった人物。Julian Copeのマネージメントもしている。
ダブの手法を大胆に取り入れたトリッキーの音楽と、彼の生い立ちを連想させる多くの写真と、Andy Earl、Paul Rider、Valerie Phillipsなど著名な写真家による彼のポートレートが入り交じったブックレットは、このアルバムに込められたメッセージをビジュアルで表現しているかのようである。「HELL IS ROUND THE CORNER 」地獄から逃れる逃亡者の物語が見えてくる、重いパンチを入れられた時に感じる痛みがいつまでも抜けないような一枚である。
- アートディレクション、デザイン
- Cally
- フォトグラフ:Tricky Shoot
- Andy Earl
Paul Rider
Valerie Phillips
- フォトグラフ:Random Shots
- Baron Von Callmeister
- 参考サイト
- Maxinquaye – Wikipedia
トリッキー – Wikipedia
- 発表
- 1995年2月20日
メンバーの脱退やリード・ボーカルのデイヴ・ガーンの薬物過剰摂取と自殺未遂など、混迷していたデペッシュ・モードの復活を決定づけたアルバムで、セールス的にも大成功をおさめた名盤。「Barrel of a Gun」「Home」「It’s No Good」「Useless」など、後に彼らの代表曲となる曲が収められている。
このアルバムのジャケットデザインはU2やデビッド・ボウイなど数多くのミュージシャンを撮影しているロック写真家アントン・コービン。彼はデペッシュ・モードのステージングやビデオなどのアートワークも数多く手掛けている。アントンが手掛けた『ultra』のカバージャケットは闇の中から力強く吹き出そうなエネルギーを連想させる。粒子の粗い岩肌の様な空間に浮かぶ「ULTRA」の文字は、まるで宇宙と交信しているかのようである。デペッシュ・モードを甦らせた底無しの力はニューチェの「権力への意思」を彷彿とさせる。このアルバムに収められた曲やアートワークは、制作に携わったメンバーやスタッフの静かな情熱が感じられる。
筆者はフィレンチェのレコード屋で購入したLPレコードを持っているが、ジャケットの裏面はアントン撮影によるメンバー三人のポートレート写真がレイアウトされている。この写真はアントンのお気に入りの一枚らしく、彼のオフィシャルサイトでは、マラケシュでの撮影された様子が綴られている。
以下、アントンのサイトより
Marrakech, 1996
With DM I have done so many photographs it is hard to choose a particular one,
but this is probably my favourite. It was shot the day before we filmed the
‘ Barrel of a Gun ’ video and we had two hours to shoot press shots and things
I wanted to use for the ‘ Ultra ’ sleeve so pretty rushed really. I was using very
grainy film and I have started to shoot with that more recently-it is muted,
not so saturated in colours.
- アートディレクション、フォトグラフ、ジャケットデザイン
- Anton Corbijn
Anton Corbijn – Wikipedia
アントン・コービン – Wikipedia
- スリーブ・デザイン
- Richard Smith
Area
- 参考サイト
- Ultra (album) – Wikipedia
Depeche Mode – Wikipedia
デペッシュ・モード – Wikipedia
- 発表
- 1997年4月14日
80年代に活躍したロックバンド「紅麗威甦」のシングルを集めたベスト盤。ジャケットデザインは収録されている曲のジャケットアートが整然と並べられているだけだが、それぞれのアートワークが個性的なので、このくらいシンプルなレイアウトでも悪くない。このアルバムで目を引いたのは、ジャケットではなく、中に納められているディスクのデザインである。
中心から半径3.5センチの円は、朱色の地に墨文字でアルバムタイトルとアーティス名などがレイアウトされている。残されたその周辺部は黒のベタ塗りだか、よく見ると同心円状に黒色で六本の罫線が二組計12本引かれている。そう、レコードを聴いていた人には懐かしい、ドーナツ盤をモチーフにしたデザインである。昔のレコードのようにA面B面と、表と裏がないことが残念だが、コンパクトディスクという規格上、仕方がない。
このディスクデザインを見て、レコードのA面B面には趣きがあったと再認識させられる。表の世界と裏の世界という、レコードには二面性がある。この物理的な違いを利用して、表と裏で異なるコンセプトにしたり、曲の構成に意味を持たせたりと、レコードには制限があるからこそ出来る遊びがあった。そして、裏返すという煩わしさがもたらしてくれる愛着も感じられた。
そんなことを思いながら、このCDを聴いた。同じ曲でもここから流れてくるシングル版とアルバム版では、アレンジが微妙に違う曲もある。DTMなど無かった時代のこだわりに感心させられた。
- 参考サイト
- 紅麗威甦 – Wikipedia
- 発表
- 2011年1月19日
油で拭いた後の鉄板のようなうねった模様の暗闇の中に、二人の紳士が落ち着いた眼差しでこちらを見ている。黒色と金色と赤色を用い、センターラインを意識してレイアウトされた簡潔なデザイン。
2011年1月4日に癌で亡くなったミック・カーンと元ウルトラヴォックスのミッジ・ユーロによるコラボレーション。個性的な二人の感性が融合された傑作で、ボクは今でもこの12インチ・シングルに針を落とす。
ジャケットのアートワークは、元ファクトリー・レコードの専属デザイナーで、今やカリスマ的存在のグラフィック・デザイナー:ピーター・サヴィルと、1960年代後半から70年代前半にかけてローリング・ストーンズやジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトンなど著名なミュージシャンを精力的に撮影していたリンダ・マッカートニー。『AFTER A FASHION』の写真を撮っていた1983年は、ヴォーカル・キーボードで参加していたポール・マッカートニーのバンド『Wings』が1981年に活動を停止し、料理研究家として本を出版する1987年までの間で、特に目立った活動はしていない。一方、1983年のピーター・サヴィルは、ニューオーダーの『ブルー・マンデー』や『権力の美学』、ロキシー・ミュージックのライヴ・ミニ・アルバム『The High Road』など多くの作品を手掛けている。
ピーター・サヴィルは1982年にヴィサージの『The Anvil』やウルトラヴォックスの『Quartet』に携わっているので、この流れで『AFTER A FASHION』のデザインも手掛けていると思われるが、リンダ・マッカートニーの写真が加わると、これらの作品よりも気品が感じられる。
エジプトで撮影されたプロモーション用ビデオも音と映像のマッチングが素晴らしい。
- デザイン
- Peter Saville
Peter Saville (designer) – Wikipedia
ピーター・サヴィル – Wikipedia
- フォトグラフ
- Linda McCartney
Linda McCartney – Wikipedia
リンダ・マッカートニー – Wikipedia
- 参考サイト : Mick Karn
- Mick Karn
Mick Karn – Wikipedia
ミック・カーン – Wikipedia
- 参考サイト : Midge Ure
- Midge Ure
Midge Ure – Wikipedia
- 発表
- 1983年7月8日
タイのロックバンドFUTONの元メンバーであるモモコのソロプロジェクト「momokomotion」のファーストアルバム。
FUTONはThe Danse SocietyやInto a CircleにいたBee (Paul Hampshire) やSuedeのドラマーSimon Gilbertが在籍していたイギリス人、タイ人、日本人によるバンドで、現在は「GOO」とバンド名を変えてタイを中心に活動している。
FUTONでキーボードやボーカルを担当し、中心的な役割を担っていたモモコのファーストアルバムのジャケットに大きく載せられたイラストは、日本の現代美術を代表するアーティスト奈良美智さんによるもの。奈良さんの絵とmomokomotionの音がうまくマッチしている。ボクの持っているブックレット版では奈良さんのイラストとmomokomotionの世界がちりばめられていて、初期のFUTONを連想させる曲を聴きながらページを捲ると、momokoworldにはまります。
「momokomotion」と奈良美智という個性的な二人がタッグを組んだおすすめの一枚(一冊)。
- カバーペインティング
- 奈良美智 – Wikipedia
奈良美智の日々
- アートディレクション
- momokomotion
- ロゴ、グラフィックデザイン
- Pam
- グラフィックデザイン
- Takae Ooka
- フォトグラフ
- Karnklit Jianpinidnun
- 参考サイト
- momokomotion: Punk in a coma
- 発表
- 2009年3月25日
昨年の10月19日に発売されたこのCDのアートディレクションとデザインを手掛けました。
このデザインをする時には、前身バンド「紅麗威甦」の曲や映像を視聴して、約30年前にタイムスリップして、彼らの過去を詳しく知ることから始めました。もちろん、この依頼を受ける前から「紅麗威甦」のことは知っていたけど、昔のイメージを明確にするために過去を洗い直す作業をしました。また、アーティストとの打ち合わせの中で、過去のエピソードも聴いたり、今後の意気込みを知るとともに、初期段階でのデモ曲を聴き、その後ミックスダウンとマスタリングの様子も伺って、彼らの新しい門出の過程を体験しながら、彼らの想いを共有して形にしました。
写真は雑誌を中心に多くのタレントを撮影しているフォトグラファー伊東武志。ロケハンの時には、ボクが古い情報を伝えてしまい、伊東氏には迷惑をかけてしまったこともあります。そんなボクのミスを消し去るかのように、ロック好きな彼の感性が、紅麗威の魅力を引き立て、大人のロックを連想させる写真を撮ることができました。この場をかりてお礼申し上げます。
制作過程では、紅麗威オフィシャルブログにあるように、彼らの意気込みを再確認したり、アドバイスや説得など紆余曲折ありました。まさに、産みの苦しみ。その結果、メンバーの方々にも喜んでいただけるものが出来て嬉しかったです。
昨年末には「ニューイヤーズワールドロックフェスティバルin博品館劇場」にも出演し、その模様が1/9の深夜(1/10(月)AM 01:15 ~ 04:15)フジテレビ〔8ch〕で放映される。2011年、紅麗威の活躍が楽しみです。
- デザイナー
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- フォトグラファー
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- 参考サイト
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- 発表
- 2010年10月19日
デビッド・ボウイの11枚目のアルバム。アナログLP版もCD版も持っていて、過去に数えられないほど繰り返し聴いているし、ジャケットの写真も大好きでよく眺めていた。
Wikipediaによると、このジャケット写真について「ボウイの不思議なポーズは、オーストリアの画家エゴン・シーレの自画像を真似たと言われる」とある。ボウイはエゴン・シーレが相当好きらしく、アルバム『アウトサイド』のアルバムカバーのコンセプトもシーレの影響を示唆しているし、ボウイが描いた絵画にもその影響が見られる。
先日、フォトグラファーの生井秀樹さんと打ち合わせをしていたときに、生井さんの口から「デビッド・ボウイのヒーローズの写真を撮った鋤田さん」という言葉を耳にした。このごく当たり前のこの言葉が、筆者の記憶を呼び戻した。その昔、筆者はこの写真を撮った写真家を間違えていたことがあった。恥ずかしくて、間違えた写真家の名前は言えないが、こんなに有名な写真を撮影した写真家を間違えるとは…。しかも、鋤田さんといえば、ロック写真家を目指すならその多くの人が憧れる第一人者である。先輩との会話の中で思い出したこのアルバム。久しぶりに、この写真をじっくり眺めてみようと思った。
- フォトグラファー
- レンズをはさんだふたつの世界 第3回:鋤田正義 – LIVERARY.COM
鋤田 正義 | Fotonoma The Photographer
- 参考サイト
- 英雄夢語り (ヒーローズ) – Wikipedia
"Heroes" – Wikipedia
- 発表
- 1977年10月14日
このシュールなデザインは、BUCK-TICK、サッズなどのジャケットデザインを手がけている秋田和徳さん(marmalade Swan)によるもの。秋田さんの手がけたジャケットデザインには、まるでバンドの一員であるかのように親密なミュージシャンとの阿吽の呼吸を感じます。マージンのとりかたにみられるレイアウトのバランス、罫線や書体の使い方、そして秋田さんの世界観を特徴付けている独特の配色などデザインのクオリティも高く、眺めていると自分の仕事に対する向上心も高まり、いい刺激になります。
ボクも大好きな加藤和彦さんに魅了されるなど、趣味も近いところがあるようで、身勝手な親近感を覚えました。それにしても、金子国義さんのジャケットに秋田和徳さんの手による帯は最高に素晴らしい。
この『CELEBRATION』はジャケットもブックレットも縦開きタイプで、ポジトロンがデザインしたザ・マッド・カプセル・マーケッツ『010』も同じ体裁だったけど、インパクトがあり記憶に残るスタイルになっている。
「学生時代のような気分で、やりたいようにやりました」というこのアルバムのアートワーク。AUTO-MODの音に共鳴された秋田和徳さんのアーティスティックな世界がダイレクトに伝わってくるようです。
- デザイナー
- 秋田和徳ブログ『バラ・グラフィック』
- フォトグラファー(アーティスト)
- K. OSHIMA
- ヘアーメイク
- Yasuyuki TAKIMOTO (B-style)
- 参考サイト
- EESTANIA2000 [ AUTO-MOD ]
AUTO-MOD – Wikipedia
- 発表
- 2010年11月24日
アートディレクタもつとめたブライアン・フェリー自身もライナーノーツで語っているように、このジャケットデザインはエドゥアール・マネの『オランピア』にインスパイアされて作られている。ミューズとしてモデルのケイト・モスを起用し、コスチュームはクリスチャン・ディオール。「GORGEOUS」「GLAMAROUS」「GREAT」三拍子そろったブライアン・フェリーの力作となっている。
レイアウト・デザインのChris Peytonは、英EMIのマーケティング・アート部門「The RedRoom」所属のデザイナーで、ジェネシスの『Genesis 1970-1975』のカバー・デザインをはじめとして、UB40、Blondieなどのベスト盤やライブ・アルバムのアートワークを手掛けている。
カメラマンのAdam Whiteheadは1973年生まれのファッション・フォトグラファーで、ヴェルサーチやステファネルなどを顧客にロンドンとニューヨークで活躍している。
この作品は曲作りの面でも若いアーティストとの取り組みがみられ、斬新さと熟練した知性のバランスがロック界の新たな可能性を示唆している。
- Art Director
- Bryan Ferry – Wikipedia
Bryan Ferry
- Layout
- Chris Peyton
- Digital art
- Jono Patrick
- Photographer
- Adam Whitehead
- Couture
- Jhon Galliano at Dior
- Jewellery
- S.J. Phollips
- 参考サイト
- Olympia (album) – Wikipedia
- 発表
- 2010年10月25日
ラッセル・ミルズは厚塗りの塗料に金属、粉末、骨、羽、蜜蝋、布、ワイヤー、動物の皮、紙などの材料をキャンバス上に埋め込むように作品をつくる。その唯一無二な作風は、デヴィッド・シルヴィアンやブライアン・イーノ、ピーター・ガブリエルなど多くのアーティストからも支持されているが、その中でも、ナイン・インチ・ネイルズの 『ザ・ダウンワード・スパイラル』のアートワークは素晴らしく、グラスゴー美術学校にも展示されていいる。
ラッセル・ミルズ自身、ナイン・インチ・ネイルズとのこの取り組みには力を入れていたらしく、アルバムのカバーと小冊子のアートワークを始め、このアルバムからのシングル『March of the Pigs』と『Closer』、リミックスコレクション、そして2004年のデラックス版のアートワークも手がけている。
以下は、ラッセル・ミルズによるコメントの意訳。
“私は物質的に、概念的に、そして物理的に重ね合わせる手法で作品を作ることを考え続けていました。私は身をさらし、隠されたものを明らかにすることについて、そして、同時に閉じて覆う手法で作品を制作したかった。歌詞の本質と音楽のもつ力によって制作し、痛みと癒しの一見相容れないイメージについて暗示した作品を作ることを試みることは的を得ていると、私は感じた。傷口の下に心底ひりひりするような痛みを部分的に明らかにした美しいものを作りたかった。多種多様な材料で作られた『Wound』は私がこの調子で取り組んだ最初の作品で、アルバムのカバーに採用された。それは石膏、アクリル、油、錆びた金属、昆虫、蛾、血液(自分の)、ワックス、ニス、手術包帯を木製パネルに埋め込んで作られている。”
- デザイナー
- Russell Mills (artist) – Wikipedia
Russell Mills
- 参考サイト
- The Downward Spiral – Wikipedia
ザ・ダウンワード・スパイラル – Wikipedia
- 参考サイト
- nin.com [the official nine inch nails website]
Nine Inch Nails – Wikipedia
ナイン・インチ・ネイルズ – Wikipedia
- 発表
- 1994年3月8日